フォーマットがバラバラな帳票もDX Suite の一括設定で読取可能、ほとんどの口座振替依頼書のデータ入力業務を自動化へ

- 業界:金融・保険
- 設立:1986年6月
- URL:https://www.netbk.co.jp/contents/company/
- 帳票:口座振替依頼書
- 効果:業務時間削減/残業減少, 自動化の実現
- Before
- 年間の口座振替依頼書のうち4割に対してAI-OCRを利用していたが、残り6割はレイアウトが多様で設定が間に合わないため、手入力でデータ化していた
- 1件あたり3.62分の処理時間、最大3名での多重チェック体制で実施
- After
- 既存の4割に加え、フォーマットが多様な6割の帳票もDX Suite の別の読取方法により、自動データ化を実現
- 入力・チェック体制の1名分をAI-OCRで代替し、手入力に対して、AI-OCR導入により処理時間基準で6倍の削減効果を達成
毎月大量の口座振替依頼を処理する住信SBIネット銀行様。同社が受領する口座振替依頼書のフォーマットは多種多様なため、フォーマットのパターン数が少ない4割の帳票にしかAI-OCR を活用できていませんでした。しかし、フォーマットのパターン数が複数あっても、項目名によって一括で設定できるDX Suite の読取機能により、ほとんどの帳票のデータ入力業務の自動化を実現されました。今回は、DX推進を担当する田所様と松村様に、導入背景から効果、今後の展望まで詳しくお話を伺いました。
全体の6割はレイアウトが多様で設定が追いつかず、手入力でデータ化
――ご担当の役割と、今回の取組に至った背景を教えてください。
田所様:私はシステム開発第1部 イノベーションラボグループに所属しており、全社的なソリューションの導入・運営管理や活用支援、そして他組織の業務プロセス改善支援を行っています。
松村様:私は同部と業務部を兼務しており、今回のDX Suite 活用事例とも関係する口座振替依頼などの業務プロセス最適化を行っています。

<左から:住信SBIネット銀行株式会社 業務部 業務管理G 松村 剛哉 様、システム開発第1部 イノベーションラボグループ 田所 由香里 様>
ーー御社の口座振替サービスと大まかな流れについて教えてください。
松村様:当社はネット銀行として、一般的な銀行と同様、口座振替サービスを提供しています。例えば、お客さまが利用されるサービスの入会手続きなどで口座振替を希望される場合、口座振替依頼書に必要な情報をご記入いただきます。口座振替依頼書は、さまざまな企業から当社提携の収納企業へ渡り、各収納企業がまとめて当社へ送付するという流れです。
ーー既に一部はAI-OCRを活用されていたとお聞きしましたが、どのような課題を抱えていたのでしょうか?
松村様:AI-OCRでは事前に読み取りたい項目の位置を設定する必要があります。既存の4割の口座振替依頼書は、レイアウトのパターンが限られていたため、読取範囲を一つずつ指定する読取方法で対応していました。 しかし、残りの6割は企業ごとにレイアウトが多様で、かつ処理枚数もまちまちでした。個別に設定を作成していくには、作業負担が多く、手入力で対応していました。
ーー1件あたりの処理にはどの程度の時間がかかっていたのですか?
松村様:誤りが許されない業務であるため、一枚の帳票に対し最大3名が関与します。手入力の場合はデータ入力・チェック・ダブルチェックの3名、AI-OCRの場合はデータ入力が不要であるため2名。直近データによると、手作業とAI-OCR全体の平均処理時間は、1件あたり3.62分でした。
6倍の効率化と予想以上の波及効果
ーー導入による効果はいかがでしたか?
松村様:DX Suite には、項目名を登録しておけば、レイアウトが異なる帳票でも自動的に該当項目をAIが探して読み取る別の方法があることを知りました。この方法であれば、多様なレイアウトの帳票にも効率的に対応できると判断しました。 処理時間については、手入力に比べ大幅な削減効果が見込まれています。手入力と比較し、約6倍の効率化を想定しています。
ーーDX Suite 導入後の業務フローはどのように変化したのでしょうか?
松村様:現場の負担を最小限に抑えるため、業務フローは維持しました。変更点は、手入力の代わりにAI-OCRで読取った結果をチェックする工程のみです。当社へ送付される口座振替依頼書をオペレーターが開封し、収納企業ごとにファイリングします。担当者がスキャナで読み取り 、所定のフォルダにPDFファイルを格納のうえ、DX Suite に読込みます。 その後、担当者が読取結果を二次チェックし、誤認識があれば修正します。その後、RPAがそのCSVファイルを読み取り、当社システムへ登録していきます。

ーー業務品質や担当者の働き方にはどのような変化がありましたか?
松村様:委託先では、口座振替依頼のほか、顧客対応などのさまざまな業務を行っており、繁忙期などに業務量の偏りが発生していました。口座振替依頼業務に余裕ができることで、他チームへの支援が可能となる見込です。 また、従来の手入力が廃止されることで、AI-OCRの読取結果の確認に集中できるようになり、間接的に誤りや事故防止への貢献が期待されています。
ーー現場からの反響はいかがでしたか?
松村様:「これまで手入力だった6割の帳票の読取も自動化できる」という点は、現場から高く評価されています。現行の業務フローを維持し、単純にAI-OCR活用の幅を広げることができる点は、現場にとって安心材料でした。

複数ソリューションを多角的に比較検討
ーー 導入にあたり、どのような観点で各ソリューションを比較検討されたのでしょうか?
田所様:レイアウトが多様な帳票の読取という要件に対して、複数アプローチを検討しました。まず、RPAツールに組み込まれているAI-OCR機能の活用です。既に活用しているRPAに組み込まれているAI-OCRは、追加投資を抑えられる選択肢でした。 また、画像全体のAI-OCR処理後、その読取結果を生成AIへ入力し、必要な情報を出力させる方法も検討しました。最新技術を活用したアプローチとして、期待していました。
ーー 各ソリューションの検証結果はいかがでしたか?
松村様:RPA組込型のAI-OCR機能について、英語では一定の読取精度が確認されたものの、日本語の読取精度に課題がありました。特に手書き文字の読取精度は、現在利用しているAI-OCRより低下してしまうことが判明し、業務での利用は困難と判断しました。 生成AIを活用した方法は、読取精度の面で良好な結果が得られました。しかし、画像全体のテキストデータを処理するため、1件あたりのトークン(※)数が膨大となり、処理コストが想定を大きく上回ってしまいました。毎月大量の帳票を処理するため、そのコストを考えると、現実的ではありませんでした。

※トークン:生成AIがテキストを処理する際の基本単位。ツールやプランによっては、処理するデータ量(トークン数)に応じて利用料金が課金されるため、大量のテキストを処理する場合はコストが高額となります。
ーー最終的にDX Suite を選定された決め手は何でしたか?
松村様:3つの観点から、総合的に判断しました。第一に、日本語の読取精度が他ソリューションと比較して圧倒的に高かったことです。特に手書き文字の読取精度は、業務で要求される水準を十分にクリアしていました。
第二に、費用対効果です。運用コストを試算し、問題はないと判断しました。
第三に、汎用性の高さです。口座振替依頼書だけでなく、他部署が抱える様々なレイアウトの帳票にも、項目名登録による柔軟な読取方法で対応できるサービスであり、全社的な業務効率化につながると判断しました。実際、トライアル時には約20の部署から利用希望があり、社内のニーズがあることは認識していたため、さまざまな帳票に対応できるという点は重視しました。
金融機関ならではのセキュリティ検討
ーー社内での合意形成において、どのような点が重視されたのでしょうか?
松村様:主に、コスト面とセキュリティ面でした。コストについては、DX Suite の利用量増加に伴うコスト増加が想定されましたが、既に発生しているコストやほとんどの帳票が読み取れることによる効果を十分検証した上で、クリアできました。 セキュリティ面では、クラウド版を利用するため精査が必要でしたが、DX Suite ではセキュリティチェックシートが公開されていたり、オプションでSSO認証が有効化できたりということで、関係者間で安全性を十分確認し導入に至りました。
全社展開と今後のDX戦略
ーーオンボーディング期間中のAI inside のサポートはいかがでしたか?
田所様:操作方法の説明会を開いていただいたのですが、基礎編と応用編で説明会の内容を分けてほしいという当社の要望に対し柔軟に取り組んでいただき、この点は非常によかったです。また、質問票を送付した際は、遅くとも翌営業日には回答があり、タイムリーにご対応いただけたと評価しています。

ーー今後の展開予定について教えてください。
田所様:現在は、各部署でどのような業務に活用できるかを検討しているところです。システム部門で運用管理していくにあたり、そのルール策定を進めており、まもなくリリースできる見込です。リリース後は、本格的に運用開始し、さまざまな案件でAI-OCRによる業務効率化を進めていきたいと考えています。
ーー具体的にはどのような社内展開を想定されていますか?
田所様:案件規模によるものの、小さな案件は各部署が主体的にAI-OCRやRPAを活用し業務効率化を進め、大きな案件はプロジェクト化し推進するといった動きを進めていく予定です。
ーー今後の自動化やDXに関する展望を教えてください。
松村様:当社はネット銀行として、顧客接点が限られているため、カスタマーセンターなどの貴重な接点に注力し、顧客満足度向上を目指しています。そのためには、顧客接点以外の業務を積極的に自動化・効率化し、人にしかできない業務に集中できる環境を整えることが不可欠です。自動化・効率化は、顧客満足度向上に資する重要な施策と位置づけています。
ーーありがとうございました。
